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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)7597号 判決

原告 日蓮正宗

右代表者代表役員 細井日達

原告 創価学会

右代表者代表役員 池田大作

右原告二名訴訟代理人弁護士 毛受信雄

同 松井一彦

同 中根宏

被告 清水亘

〈ほか二名〉

右被告三名訴訟代理人弁護士 松本光郎

被告 有田正憲

〈ほか一名〉

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告らの請求の趣旨)

一  原告らに対し、

(一) 被告清水亘および同山陰探月は別紙目録(一)記載の、

(二) 同清水亘および同竹田正一は同目録(二)記載の、

(三) 同清水亘、同有田正憲および同杉本一夫は同目録(三)記載の

各謝罪広告を、各目録記載の刊行物に、各目記載の組割使用活字をもって、それぞれ共同して各一回掲載せよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

(請求の趣旨に対する被告らの答弁)

主文 同旨の判決。

第二当事者の主張

(原告らの請求原因)

一  原告日蓮正宗は、宗祖日蓮の教義の宣布を目的とする宗教法人であり、原告創価学会は、右日蓮正宗の教義の宣布および仏法の精神による社会の実現を目的とする宗教法人である。

二  被告清水亘は、議会主義政治擁護国民同盟および大日本独立青年党の総裁であると自称し、各種公職選挙の都度自ら立候補するのみならず、配下知人らを右同盟公認と称して右各選挙に立候補させているものであり、その余の被告らは、いずれも被告清水の指示に従い後記のとおりの公職選挙に立候補し、選挙活動を行なったものである。

三  そして、被告清水の指示のもとに、

(一) 被告山陰探月は、昭和四〇年七月四日施行された参議院議員選挙に大阪地方区から立候補し、その際大阪府選挙管理委員会から発行され、右地方区に属する全有権者世帯に配布された選挙公報に、同委員会をして、別紙目録(四)の文章を含む掲載文を掲載させたものである。

(二) 被告竹田正一は、前号の選挙に東京地方区から立候補し、その際東京都選挙管理委員会から発行され、右地方区に属する全有権者世帯に配布された選挙公報に、同委員会をして、別紙目録(五)の文章を含む掲載文を掲載させたものである。

(三) 被告有田正憲および同杉本一夫は、昭和四〇年七月二三日施行された東京都議会議員選挙に、それぞれ豊島区および新宿区から立候補し、東京都選挙管理委員会から発行され、右各地区の全有権者世帯に配布された選挙公報に、同委員会をして、いずれも別紙目録(六)の文章を含む掲載文を掲載させたものである。

四(一)  別紙目録(四)ないし(六)の各文章は、原告らに対する悪意の誹謗を内容とする侮辱的表現をもって終始しており、これらが原告らの社会的評価を低下せしめる目的で作成されたものであることは右文章自体から明らかである。また右各文章は、読者に原告日蓮正宗の歴代管長および原告創価学会の歴代会長がいずれも通常嫌悪されている病歴、死因によって死亡しているが如き印象を与え、しかもそれを侮辱的に捏造または誇張した表現をとることによって、いわゆる悪業の報いであるかの如く印象づけ、ひいては原告らの信奉する信仰そのものが邪教であるかのような印象を与えることを狙って、作成されたもので、原告らの名誉を傷つける内容を有するものであることは明らかである。

そうすると、被告らがとった右のような事実の選定の仕方、悪意に満ちた形容、誇張歪曲した表現方法は、右各文章に摘示された事実の真否のいかんを問わず、原告らの名誉を毀損するものといわなければならない。

(二)  右各文章で摘示された事実の真否自体は名誉毀損の成立要件ではなく、被告らの行為の違法性を加重する事由となるにすぎないが、被告らの摘示した事実の大部分は明らかに虚偽であり、他の大部分も一定の偏見にもとづいて中傷の目的で作成されたことが明白な、したがってまた信憑性の薄いことが明白な文献に拠ったものか、そうでない場合も歴史的事実として真否不明に属する事柄を故意に不名誉な形容を冠して断定的に述べたものである。よって、原告らは、被告らの行為の違法性を加重する事由として、予備的に被告らの摘示した事実が虚偽なものであることを主張する。ちなみに、問題のある摘示事実とこれに対する原告側の主張を対比して指摘してみれば別紙目録(七)のとおりである。

五  前記各掲載文は、形式的には被告清水を除くその余の被告らの申請にもとづき掲載されたものであるが、前記のとおり右被告らの行為は、被告清水の指示にもとづいてなされたものであるから、被告清水は右各掲載文の掲載について責任を免れない。

六  原告らは、原告らの名誉を回復するためには、本件名誉毀損の態様からみて謝罪広告が最もふさわしく、そしてその内容および発表形式は本件各選挙公報掲載文の内容、同公報の配布範囲、原告らおよび被告らの社会的地位、影響力などに鑑み、請求の趣旨第一項記載のとおりのものとするのが相当と考える。

よって、原告らは、被告らに対し請求の趣旨記載の判決を求める。

(請求原因に対する被告らの認否)

一  請求原因第一項の事実は不知。

二  同第二項のうち被告清水が原告ら主張のような各団体の総裁であることは認めるが、その余の事実は争う。

三  同第三項のうち被告清水を除くその余の被告らが、原告ら主張のとおりの各選挙に立候補し、選挙公報に同主張のような掲載文を掲載させたことは認めるが、これは被告清水の個人的な指示によるものではなく、被告清水を含む議会主義政治擁護国民同盟の党議にもとづき行われたものである。

四  同第四項の主張は争う。

五  同第五項の事実は争う。すなわち、原告ら主張の選挙公報の各掲載文は、被告清水の個人的な指示にもとづき行われたものではない。

六  同第六項は争う。

(被告らの抗弁)

一  人間の死亡原因(本件では病名、事故死等)は、人の人格的評価になんら関係しないものであり、したがって名誉権の内容にならない。また、歴史的人物(死者中すでに歴史的過去に属するものにして、特に民族、人類文化史上の歴史的遺産と考えられる人格)については、現行法の保護せんとする名誉権の侵害観念をもって律することはできない。これらの人物に対する現代よりの評価は、右人格およびそれらと特殊関係をもつ人格に対する不法行為となるとは考えられない。例えば、シャカ、キリストに対する誹謗が、シャカ、キリストおよびシャカ、キリスト各教団に対する名誉権の侵害とならない理と同一である。

よって、被告らが、日蓮、原告日蓮正宗の歴代管長および原告創価学会の歴代会長の死亡原因を摘示し、選挙公報に掲載、配布させたからといって、原告らの名誉を傷つけたことにはならないものである。

更に、人の名誉が毀損されたとする場合、摘示された事実は人の社会的評価を害するに足りる事実でなければならないが、そもそも真の宗教においては、その宗祖および歴代管長等がどのような死に方をしたとしても、当該宗教が邪教であると評価されることはない。すなわち、キリストは泥棒と共に十字架に罪人としてかかったとすることのためにキリスト教は邪教であると思うものはいないし、たとえ日蓮が中風で、原告創価学会の初代会長牧口常三郎が栄養失調で獄中で死のうと誰もその一事だけで、原告日蓮正宗は邪教であると評価したり、原告創価学会は邪教を信じている者の集団であると評価する者はいないはずである。

二  被告らは、選挙活動の一環として、原告ら主張のような文章を含む掲載文をそれぞれ選挙公報に掲載したものであり、その掲載内容は選挙活動として許容されている限度を逸脱しておらず、かつ、表現、言論の自由の範囲内に属するものであるから、被告らの本件行為は違法性を阻却するものというべきである。

三  被告らは、原告創価学会が邪教を布教し、善良なる国民を欺罔し、人心を紊乱し、公共の福祉を害するものとの信念を有し、その邪教に惑わせられつつある者を覚醒せしめんと、公共の利害に関する事実につき公益を図ることを目的として本件行為に出たものであり、かつ、被告らの摘示した事実はいずれも真実であるから、その違法性を阻却するものというべきである。

四  仮に、被告らの摘示した事実が真実でないとしても、被告らは、これを摘示するに際して、客観性を有する文献を検討したうえ、選挙公報に掲載する手続をとったものであり、右参照文献はいずれも権威のある宗教学者、僧侶の著したものであり、かつ、公に流布されているものであり、あるいは原告側の出版したものであることから、被告らはそれらに記載されている事実が真実なものであると信じて、これを摘示、掲載するに至ったものであるから、被告らに故意または過失はなく、したがって被告らに不法行為上の責任はないといわなければならない。

五  被告らの本件各文章の掲載行為は、「正当批評(フェア・コメント)」に該当するものであるから、その違法性は阻却されるものである。すなわち、「正当批評」は、公共の利害に関する事項について、事実の摘示のうえに、これに対して価値判断を加えるものであり、その重点は意見(価値判断)の表明であり、違法性を阻却するものである。

被告らは、本件各文章において、原告らの宗教、信者団体に対し、事実を根拠として消極的価値判断を発表したにすぎない。消極的批判の場合、往々言辞の上で辛辣かつ揶揄的軽蔑的に被批判者に聞えやすいことは当然であるが、本件の場合のごときは、原告らが他宗を批判する際の激越な筆法、論調にくらべれば、かなり穏当かつ思想的であり、批判の態度において正当である。

(抗弁に対する原告らの認否)

一  抗弁第一項の事実は争う。人間の死亡原因は本来人格評価と無関係であるが、原告らに対する攻撃を目的とする本件各文章において、それが摘示されていること自体、被告らはこれを人格評価と関係ありと考えていた証左である。原告らは、単に死亡原因が摘示されたから名誉が毀損されたと主張しているのではなく、そのとりあげ方が原告らの名誉を毀損するものであると主張しているのである。

また本件各文章は原告らに向けられた誹謗の文章であり、歴史上の人物に対する中傷はそのための手段としてなされているのである。それはあたかも個人の攻撃のために、その系図をたどって祖先ないしそれにつながる過去の人物を誹謗するのと同様であり、その発表に当り問題のある人物のみを摘示しこれに関し真偽とりまぜて侮蔑的表現をもってした場合と全く同じであって、そのような悪意の中傷が不当なものであることは明らかであり、それによって社会的評価が低下させられる危険性があると認められる以上、名誉毀損となることはいうまでもない。

被告らは、また、キリストに対する誹謗かキリスト教団に対する名誉毀損となる余地はないというが、それがキリスト教団に対する誹謗を目的とするものである以上、名誉毀損を構成する場合のあることはいうまでもないところである。

二  同第二項の事実は争う。

被告らの本件選挙公報掲載文は、選挙活動に名を藉りてはいるが、その実質は自己の売名的宣伝であり、その内容からみても、自己の経歴、政見とは全く無関係なもので正常な選挙活動のための文書とはいえない。

仮に、それが選挙活動のための文書と認められることがあるとしても、選挙活動の故をもって、表現、言論の自由の範囲が拡大されたり、民刑事上の免責等の特権が認められる法理はない。

三  同第三項の事実は否認する。

仮に、被告ら主張のごとき意図が被告らにあったとしても、摘示された事実が真実であるということのほか、そのような事実摘示をすることが公益上必要であった場合でなければならず、単に公共の利益に関係があるだけでは違法性は阻却されない。そして、公共の利益に必要か否かは、公表の相手方と内容の相対関係によって決せられなければならないところ、本件選挙公報は全有権者に配布されるべきものであり、他方その内容は、原告日蓮正宗の信者、原告創価学会の会員らに関係ある事柄であって、一般有権者に直接利害関係があるとはいえない。また摘示された事実は、被告ら自身人格評価とは無関係であると自認している死亡原因が主たるものである以上、それらの事実摘示が公益上必要であったとはいえないことは明らかである。

四  同第四項の事実は争う。

五  同第五項の事実は争う。

被告らは、本来評価の資料とすべきでないものを資料とし不当な評価をしたものであり、正当批評でないこと明白である。本件各文章は、自己の売名的宣伝か、または日頃から原告らの活動発展を快からず思っている私怨にもとづく、いやがらせが目的であって、公益に関することではない。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告日蓮正宗が宗祖日蓮の教義の宣布を目的とする宗教法人であり、原告創価学会が右日蓮正宗の教義の宣布および仏法の精神による社会の実現を目的とする宗教法人であることは、≪証拠省略≫によって認められる。

二  被告清水が議会主義政治擁護国民同盟および大日本独立青年党の総裁であること、被告山陰が昭和四〇年七月四日施行された参議院議員選挙に大阪地方区から立候補し、その際大阪府選挙管理委員会から発行され、右地方区に属する全有権者世帯に配布された選挙公報に、同委員会をして、別紙目録(四)の文章を含む掲載文を、被告竹田が同選挙に東京地方区から立候補し、その際東京都選挙管理委員会から発行され、右地方区に属する全有権者世帯に配布された選挙公報に、同委員会をして、別紙目録(五)の文章を含む掲載文を、被告有田および被告杉本が昭和四〇年七月二三日施行された東京都議会議員選挙に、それぞれ豊島区および新宿区から立候補し、その際東京都選挙管理委員会から発行され、右各地区の全有権者世帯に配布された選挙公報に、同委員会をして、いずれも別紙目録(六)の文章を含む掲載文を、それぞれ掲載させたことは、当事者間に争いがない。

三  そこで、次に本件各文章が選挙公報に掲載されるに至った経緯について検討する。

≪証拠省略≫を総合すると、被告清水は、昭和二六年五月頃、防共自衛運動、日本民族の歴史的伝統と民族の誇りであるとする敬神崇神の精神を維持するための邪教撲滅運動などのスローガンを提げる議会主義政治擁護国民同盟なる政治団体を結成し(昭和三五年一〇月一〇日政治資金規正法第六条にもとづき東京都選挙管理委員会に届け済みである。)その総裁たる地位にある者であり、自らも神道を信仰していること、そして、被告清水および右同盟の党員らは、各種の公職選挙に立候補して選挙活動を行なったり、右スローガンのもと、破邪顕正と称して、邪教と目する宗教団体およびその宗教活動に対して論難を加えるため、街頭などにおいて演説活動などを行なったりしていること、一方、原告創価学会は、宗祖日蓮の教義を受け継ぐのは原告日蓮正宗であると主張し、右日蓮正宗こそ最高にして唯一の宗教であり、神道を含む他の宗教はすべて邪教であるとする宗教的価値観にもとづき原告日蓮正宗の教義の宣布を行なっている宗教団体であるが、その会員および原告日蓮正宗の信者獲得のために行われる折伏といわれる布教活動において、右宗教的価値観の相違から他の既成宗教、新興宗教および宗教団体などを邪教および邪教を布教する者であると批難したり、それらの宗教を信仰する者は不幸になる、死様が悪くなるなどとそれらの者に反感、嫌悪を生じさせるような論法を用いたりして、これまで、とかく他の宗教団体との間に抗争を招いていたこと、また、右原告創価学会の保持する宗教的価値観を絶対のものと信ずる学会員の中には、会員獲得に急なるあまり、非会員に対する折伏に際して、その迷惑をも省みず大勢で押しかけ論争をしかけたり、迷信的、脅迫的言辞や粗暴な態度で会員となることを強要したりするなど、常軌を逸した方法で布教活動を行なう不心得者が一部にはあったこと、そして、右のような原告創価学会および同会員らの布教活動をかねてより快く思っていなかった議会主義政治擁護国民同盟の総裁である被告清水およびその配下にある党員らは、前記スローガンのもと、原告創価学会こそ善良なる国民に邪教を流し、国民を害するものであると決めつけ、街頭などにおいてその批判活動を行なってきたが、昭和四〇年七月四日施行の参議院議員選挙および同年同月二三日施行の東京都議会議員選挙などの各種公職選挙に、訴外公明党が原告創価学会を支持団体、推薦母体として進出しようとする気運があることを知るにおよび、原告創価学会が同学会の事実上の支配に属する公明党を通じて政界へ進出してくることは、政教分離の原理にもとり、やがて国政を危うくすることになるのではないかと危惧の念を懐き、右参議院議員、東京都議会議員選出の選挙戦においては、国民に、公明党を事実上支配する原告創価学会は邪教であり、邪教を流すものであることを知らしめ、そのような原告創価学会の政界進出の意図を打砕くため、邪教創価学会を撲滅し宗教界の刷新を計ることを党の施策の一つとし、これを国民に訴えることに決定するとともに、右同盟の候補者として右各選挙に立候補するものにはこれを政見の一つとして掲げさせ、選挙管理委員会から発行される選挙公報には別紙目録(五)、(六)などの文章を織り込むこととする旨の決定を行い、右同盟の方針に賛同し、同党の公認として参議院議員選挙に立候補した被告竹田、同じく東京都議会議員選挙に立候補した被告有田、同杉本らをして、それぞれ別紙目録(五)、(六)の文章を含む掲載文の掲載申請を東京都選挙管理委員会になさしめ、前記のとおり同委員会をして各選挙公報に掲載させたこと、また被告山陰は、議会主義政治擁護国民同盟の党員であって、その邪教対策本部長をしているものであるが、前記同盟の決定にしたがい、原告創価学会の政界進出を阻もうと被告清水と相謀り、別紙目録(四)の文章を含む掲載文の掲載申請を大阪府選挙管理委員会になし、前記のとおり、同委員会をして選挙公報にこれを掲載させたことが認められる。

右認定事実によれば、被告清水は、被告山陰、同竹田、同有田、同杉本らが前記のとおりそれぞれ選挙公報に別紙目録(四)ないし(六)の文章を含む掲載文を掲載させるについて、これに関与し、指示を与えたものであることは明らかである。

四  そこで、被告らが別紙目録(四)ないし(六)の各文章を選挙公報に掲載させた行為が原告らの名誉を毀損するものであったか否かについて判断する。

(一)  前項で認定した事実および右各掲載文の内容に徴すると、被告らは、原告創価学会が公明党を通じて政界に進出してくるのを阻止しようとの意図のもとに、同原告を誹謗する目的で右各文章を掲載させたものであることが明らかである。反面、原告日蓮正宗については、被告らが特に同原告を誹謗する目的を有したものと認めるべき資料はない。

(二)  ところで、本件各掲載文の内容をみるに、その中心をなすのは宗祖日蓮、原告日蓮正宗の歴代管長、原告創価学会の初代、第二代会長らの病状や死亡の原因、態様等を記述した部分である。右の記述は、被告らがこれにより原告創価学会の社会的評価を低下させようと意図したものであることは明らかであるが、原告らも認めるように、本来人の病状や死亡原因等はその人の人格的評価とは無関係であって、宗祖、歴代管長等の病状や死亡原因等のいかんはその宗教ないし宗教団体の価値を左右するものではないから、客観的にみて、前記の記述内容が直ちに原告らの社会的評価を害するとは考えられない。

(三)  本件掲載文には、前記の記述のほか、原告創価学会が日本民族の伝統と誇りを破壊する邪宗であり、脅迫的、詐欺的な入信勧誘をその布教方針とし、会員信者を幹部の営利追求に利用しているかのような印象を与える記述がなされている。

そして、前記の日蓮らの病状、死亡原因等に関するものを含めて、それらの記述に特徴的なことは、その表現が著しく卑俗的であって、揶揄に満ち、原告創価学会に対する攻撃的感情をむき出しにしたものであり、かえって内容的にはまことに空疎なものとなっている点である。それだけに、それらの記述は、それを読む大多数の良識ある国民に徒に嫌悪不快の念をおこさせるに止まり、ほとんど説得力を有しないものと解さざるをえず、宗教団体としての原告らの地位性格および原告らが永年にわたり築きあげてきた高度の信用からすれば、それらの記述が原告らの社会的評価を低下させるものとは到底考えることができない。現に、原告創価学会を支持団体とする公明党では、被告らの意図に反して、昭和四〇年七月四日施行の参議院議員選挙において、別紙目録(五)の文章の掲載された選挙公報が配布された大阪地方区、別紙目録(五)の文章の掲載された選挙公報が配布された東京地方区にそれぞれ立候補した候補者がいずれも有権者の支持をえて当選し、更に同年同月二三日施行の東京都議会議員選挙においては、別紙目録(六)の文章が掲載された選挙公報が配布された新宿区および豊島区の両地区に立候補した公明党公認の候補者がいずれも都民の支持をえて当選したのをはじめ、右選挙に立候補した公明党公認の候補者が全員当選したことは、公知の事実であって、そこには本件掲載文の影響は全くみられないのである。

(四)  もとより、被告らが原告創価学会に批判攻撃を加えようとして本件のような行為に出たことは、その手段において著しく不当であり、公職選挙法が民主政治達成のため選挙公報の制度を設け公職候補者に政見等の発表の場を与えた趣旨を濫用するものであるが、そのような濫用行為をいかにして防止し排斥するかは本件とは別個の問題であって、すでに判示したとおり、被告らの本件行為が原告らの社会的評価を低下させたものと認められない以上、右行為により原告らの名誉が毀損されたとしてその回復のための謝罪広告を求める本訴請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく、理由がないといわなければならない。

五  よって、原告らの本訴請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村岡二郎 裁判官 白石嘉孝 玉田勝也)

〈以下省略〉

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